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「未来の船」と希望を抱かれた原子力船開発の歴史について解説

TECH

こんにちは、Gale(@galenomad)です。

突然ですが、あなたは原子炉の隣で寝ることができますか?

いきなり変な質問をして、すみません。しかし、そのような環境がある船が実在することをご存知ですか?

今回は、未来の船として期待視された「原子力船」の開発がどのような歴史を持っているのか見ていきましょう。

この記事では、なるべく多くの方に理解いただけるよう、技術的な話をなるべく簡略化しています。

原子力船には民間と軍用がある

原子力船の開発について詳しく見ていく前に、整理しておきたいことがあります。

原子力船には民間向けに造られたものと、軍用に造られたものがあります。

民間向けとしては、貨客船・鉱石運搬船・貨物船・砕氷船などがあり、軍用としては潜水艦・航空母艦などがあります。

この記事では、未来の船として活用できる可能性がある、民間向けの原子力船について取り扱います。

世界初の民間原子力船「N.S. Savannah」

世界初の民間原子力船は、「N.S. Savannah」というアメリカの貨客船です。

パイオニアとして成功を収めた

1959年の夏に完成されたこの船は、結果として採算が取れなかったのにも関わらず、成功を収めました。

なぜなら、この船が造られた理由は「アメリカが平和のために原子力を使えることを世界に知らしめるため」だったからです。

したがって、儲からなくても、ある程度の実用性があると証明できればアメリカとしては好都合だったわけです。

参考:16mmフィルムで撮影された、当時のN.S. Savannah↓

採算が取れない理由

採算が取れない理由はこちら。

  • 貨物スペースの狭さ
  • 多額の人件費

貨物スペースの狭さ

この船と同じような大きさのライバルに比べると、貨物スペースがあまりにも少なすぎました。

船前方の形状がシャープで、貨物船としては非合理的な設計な上、巨大な原子炉を積まないといけないことも、貨物スペースを狭くする要因になりました。

多額の人件費

この船には、通常の3倍近くの乗組員が必要でした。

容易に想像がつくと思いますが、原子力で稼働する船を安全に運用するには、乗組員に特別な訓練を行う必要があります。

さらに、特別な訓練を受け、危険な原子炉と共に航海しなければならない乗組員の多くは賃金の値上げを要求し、問題になりました。

日本の原子力実験船「むつ」

日本初の民間原子力船は、1969年に完成された「むつ」です。

他にドイツやソ連の民間原子力船もありますが、割愛させていただきます。

いくつかの問題はあったが、技術的に成功

必要な分の試験航海を終えるまで様々な問題に直面しましたが、技術的に成功することができました。

この船が造られたのは「輸入に頼っている石油燃料から脱却するため」という目的に行き着きます。

当時は日本が石油産出国である中東の国々に干渉できず、懸念が残る中でオイルショックが起き、原子力船の開発に拍車がかかりました。

次々に起こった問題

1990年に試験航海を成功させるまでに、多くの問題が発生しました。

この船が完成したのが69年で、試験航海を成功させたのが90年?

そうです。完成してから航海を成功させるまで、21年の歳月を要しています。

この間に何が起きたのか、見ていきましょう。

  • 漁師の抗議
  • 放射線漏れ
  • 佐世保での修理

漁師の抗議

1974年の夏、原子力船が稼働することを知った地元の漁師たちが、漁船を使って「むつ」を包囲しました。

これは彼らにとっての漁場が放射線によって汚染されるか、風評被害を受けることを恐れての抗議でした。

しかし、台風が来て包囲がなくなったスキを見計らって出港しました。

放射線漏れ

出港したはいいものの、設計ミスによって放射線漏れを観測しました。

最悪の事態は免れましたが、この件によって元々多かった批判が、さらに多くの批判を呼びました。

当然、港に戻れるはずがなく、「むつ」は海上に留まることを余儀なくされました。

佐世保での修理

4年後の1978年に、ついに受け入れてくれる港が見つかりました。

受け入れた佐世保市で放射線漏れを防止するための修理を行い、1990年に試験航海を成功させました。

「むつ」のその後

試験航海を終えたあとは、原子炉をディーゼルエンジンに置き換えて、海洋地球研究船「みらい」として現在も活躍しています。

 

また、降ろした原子炉は鉛ガラスに覆われて、むつ科学技術館に展示されています。

興味のある方は訪れてみては?

原子力の未来についての私見

一旦は原子力船の実用化が断念されましたが、近年、また開発する動きがあります。温室効果ガスの排出をゼロにするために原子力船の活用が注目されているためです。

人類の歴史の中で、原子力に関するトラブルは後を絶ちません。私は原子力に対する希望を完全に捨ててはいないものの、日本国内だけでも数多くの原子力事故が起きたことから、まだ慎重であるべきだと考えています。

しかし、私は気候変動とエネルギー問題について興味を抱いています。そのうえで、原子力エネルギーは人類にとって魅力的な選択肢の一つです。実用化を急ぐ必要はないですが、エネルギー問題を解決する上で簡単に捨てられる選択肢ではありません。

最も良い未来は原子力を完全に人類の制御下におけるようになることです。しかしそれは、現時点では遠い未来のように感じます。

もし原子力エネルギーを活用するのであれば、地球を含めて犠牲者が出ないことを祈ります。