Taylor Swiftが2024年の4月に “The Tortured Poets Department“ というアルバムをリリースしました。私は彼女のファンとして期待していましたが、初めてそのアルバムを聴いたときは言葉が見つかりませんでした。なぜなら私が期待していたものとは全く異なるアルバムだったからです。
“Lover” でTaylorの一つの時代が終わり、2020年に発表された2つのアルバムは落ち着いたフォークソングと興味深い物語を私たちに提供しました。“Midnights” ではシンセポップの領域に踏み込んだおかげで印象深いアルバムになり、ファンや批評家から評価されました。
新しいアルバム、TTPDはどうでしょうか?一部のSwiftiesは史上最高のアルバムと評して満足しました。批評家や大衆にとっては賛否両論であり、Taylorのディスコグラフィの中で最高でも最悪でもない微妙な評価です。私はこのアルバムが好きではありません。Swiftieとして彼女の音楽は好きですし、出来るだけ肯定したいバイアスがあるのは認めます。しかしながらTTPDは粗末なアルバムという印象を受けます。その理由を説明しましょう。
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TTPDは未完成のアルバム
TTPDはTaylorがツアーで世界中を飛び回っている間に作られた未完成のアルバムという疑惑が浮上しています。彼女は一年のほとんどをツアーの計画によって犠牲にし、人間らしい生活を送る時間は恐らくないでしょう。そのような状況で彼女が出来る限りの最高のアルバムをつくれるとは思いません。とはいえ彼女は思いついた音楽のアイデアを新鮮なうちに公にしたいアーティストだということは理解しています。ただ事実としてTTPDには多くの推敲できる余地が残されています。未完成のままリリースすることは、せっかくの秀逸なアイデアを無駄にすることを意味します。
Taylorはしばらく休むべきでした。音楽産業で重視されるのは量より質であり、たとえどんなに人気のあるアーティストでも妥協してアルバムを作るべきではありません。2020年は世界情勢によってツアーが規制されていたため2つのアルバムがリリースされましたが、2023年から続くツアーは大規模で状況が全く異なります。多くのアーティストは一つのアルバムを発表してから2年ほどはツアーのために音楽の生産を停止します。信じ難いことに彼女はツアー中にアルバムを作り上げた例外の一人です。
歌詞に頼りすぎている
本質的なアルバムの批評を始めましょう。TTPDはTaylorの作詞能力に頼ったアンバランスなアルバムです。彼女がつくる歌詞は詩的でイースターエッグを多く含むため定評がありますが、このアルバムは歌詞が曲を昇華することを信じすぎた結果のように聞こえます。
サウンドに注目すると、ほとんどの瞬間で静かで盛り上がることはありません。これは彼女の歌詞を際立たせるためだと推測しますが、人々は音楽を聴くときはいつでも歌詞に意識を集中しているわけではないため、盛り上がりに欠ける曲が集まったアルバムはただ退屈なだけです。彼女の比較的静かなアルバム、“Folklore” と “Evermore” でさえ多様性のあるドラマチックなラインが存在し、それらのアルバムは全体を通して聴いても飽きることはありませんでした。
気まずい歌詞
Taylorのつくる歌詞が優れているとはいえ、TTPDでは気まずい歌詞や冗長で遠回しな言い方が目立ちます。彼女が凝った歌詞を作ろうとしているのは伝わりますが、一部の歌詞はまだ推敲が必要なように見えます。例えばタイトルトラックである “The Tortured Poets Department” の以下の部分です。
At dinner, you take my ring off my middle finger and put it on the one people put wedding rings on
ディナーであなたは私の中指にある指輪を外し、結婚指輪をはめる指にはめ直す
間接的に表現することは芸術の一部ですが、この場合は単なる冗長だと思われてもおかしくありません。他の例ではティーンエイジャーのような未熟で気まずい歌詞が “So High School” に含まれています。
Touch me while your bros play Grand Theft Auto
あなたの友達がGTAをプレイしている間、私に触って
この曲は30代のTaylorがティーンの気持ちに戻ったつもりで書かれています。彼女の最近のボーイフレンドは一緒に過ごしていると高校時代を思い出すからです。誰もが知っているゲームの名前を歌詞に含めたのは興味深いですが、他人に聞かれると恥ずかしくなる歌詞です。それはこの曲に限らず多くのTTPDの曲に言えることです。
混乱を招く冗長で気まずい歌詞のせいで、TTPDは非常にマニアックなSwiftiesに向けた作品になっています。もちろんこのアルバムをどう捉えるかは人それぞれです。芸術作品として彼女の膨大な文章と語彙が詰め込まれたこのアルバムを評価する人々がいても不思議には思いません。音楽の評価はいつの時代も主観的な要素を排除することはできませんからね。
慣れるための時間が必要
TTPDはラジオで聞くような直感的に好きになれる曲が集まったアルバムではありません。それはキャッチーな曲が少なく、同じ曲を何度も聴いて理解する必要があることを意味します。Swiftiesにとって、それほど好きではなかった彼女の曲を好きになる瞬間は快感であり、同じことを彼女の他の曲でも試そうとします。これは一つの音楽の楽しみ方ですが、このやり方で好きになった作品は本当に優れたものなのでしょうか?
私はTTPDのいくつかの曲を好きになろうと私自身の脳を調教していたときがあり、本当に苦痛な時間でした。「私がTaylorの曲を好きになれないはずがない」と何度も好きではない曲を再生するのはあまりにも惨めです。数回聴いて好きになれないのなら、素直に自分の直感を受け入れるべきです。
音楽作品の理想は一度聴いただけで人々の心を掴むことです。2回や3回聴くことで先入観が消えて好きになることもあります。そしてあなたが音楽雑誌に掲載するための記事を書く批評家でもない限り、音楽を評価するのにタイムリミットはありません。つまりアルバムに対する結論を急ごうとする必要は全くないのです。特にTTPDのような賛否両論のアルバムでは今日と明日の評価が大きく変わる可能性があり、現在の印象が絶対的ではないことに留意しなければなりません。
単調なアルバムに隠れる傑作
ここまでずっとTTPDを批判して心が痛みました。このアルバムの良い点を指摘しましょう。“The Smallest Man Who Ever Lived” は私がこのアルバムの中で幾度となく再生した数少ないお気に入りの曲です。落ち着いたヴァースで始まり、次第に状況が明らかになります。ブリッジで彼女の怒りが爆発し、映画の残り20分間のような盛り上がりを見せます。印象的なセンテンスは下記の2つです。
And you deserve prison, but you won’t get time
あなたは刑務所に入るべきだけど、刑期は与えられない
これには複数の意味が考えられます。その小さな男は薬物中毒で裁判長が刑期を考えている間に死んでしまうという意味なのか、それとも彼は永遠に刑務所に入るべきだという意味なのか。刑務所とは比喩的な例えで何か他の閉鎖的な環境を指しているのかもしれません。いずれにせよ、短い文章のなかに多くの背景を持つ秀逸な歌詞の一つです。
And I’ll forget you, but I’ll never forgive
あなたのことは忘れるけど、決して許さない
私にはそんな器用な真似は出来ません。忘れたら許すことになり、許さなければ忘れることはありません。この一見矛盾しているように見える歌詞が奇妙な意味を持ち、聴く人々の心に深く刻まれるのです。悲劇的なブリッジのあとにTaylorが呟く言葉は非常に強力です。
次のアルバムに期待すること
Jack AntonoffとAaron Dessnerは優れたプロデューサーですが、次のアルバムでは彼らの他に新しいプロデューサーを迎えるべきです。Taylorが彼らと一緒に仕事をすることが快適でその環境が無くなるのが惜しいことなのは理解していますが、彼女には新しい刺激が必要です。“reputation” では様々なプロデューサーが関与することで音の多様性が保たれていました。
個人的には大人びたロックアルバムを求めます。“Speak Now” や “Red” の一部の曲のように、Paulを活かせる曲が新しくできれば良いのにと思います。実際にSwiftiesのディスカッションコミュニティには頻繁にロックアルバムを望むコメントが投稿されています。とは言ってもそれは希望的観測に過ぎません。次のアルバムがどのようなジャンルになろうと私はTaylorの決断を尊重し、受け入れる準備が出来ています。